私は、両親の主たる介護者として、医療従事者としても、もっと早く知っていればよかったと思う認知症ケアについてご紹介いたします。
認知症は、しばしば不安と恐れをもって接する疾患です。診断が下されると、本人にとっても愛する家族にとっても、無力感にさいなまれることになります。しかし、Contented Dementia Trustが開発したSPECAL（Specialized Early Care for Alzheimer's）法は、認知症患者の幸福と生活の質を維持することに重点を置いた、認知症ケアへの画期的なアプローチを提供しています。この方法は、認知症の捉え方と管理方法を見直し、介護者と家族に思いやりのある実践的な枠組みを提供します。
認知症に対する新しい視点
SPECAL法は、認知症は記憶力に影響を及ぼすとはいえ、人生を有意義に経験する能力を奪うものではないという理解の上に成り立っています。認知症を純粋に退行性疾患として捉えるのではなく、SPECALのアプローチは、適切な戦略によって効果的に管理することができる障害として扱います。SPECALの方法の核心は、認知症に対抗するのではなく、認知症とともに取り組むことであり、認知症の症状との闘いだけに焦点を当てることが多い一般的なアプローチとは対照的です。
SPECAL写真アルバム
SPECALメソッドの基礎となるのは、「SPECAL写真アルバム」として知られる革新的な類推法です。この例えは、介護者や家族が、認知症の人の記憶がどのように機能し、それが時間とともにどのように変化していくかを理解するのを助けるために考案されたものです。この例えでは、人の記憶は写真アルバムのようなもので、それぞれの人生経験が写真として保存されています。それぞれの写真は、出来事の事実的な詳細だけでなく、それに関連する感情も捉えています。
年齢を重ねるにつれて、これらの写真を思い出すプロセスが遅くなることがあるが、これは老化の正常な一部です。しかし、認知症患者では、事実の詳細が欠落しているが、関連する感情はそのまま残っているという新しいタイプの写真が出現します。これは 「空白 」と呼ばれます。時間の経過とともに、このような空白はより頻繁に起こるようになり、個人の現在の経験を理解する能力に影響を与えます。
事実よりも感情の重要性
SPECAL法の基本的な洞察は、認知症が進行するにつれて、当事者にとって事実よりも感情がより重要になるという認識です。事実情報を思い出す能力が低下するにつれて、認知症の人は、現在をナビゲートするために、古い記憶とそれに関連する感情にますます頼るようになります。この理解により、介護者の焦点は、事実の不正確さを修正することから、認知症の人の感情的体験が肯定的なものになるようにすることに移ります。
SPECALの3つのゴールデンルール
SPECAL法では、認知症の人を介護する人にとって不可欠な「3つの黄金律」と呼ばれるガイドラインを紹介しています：
直接的な質問をしない： 直接的な質問は、認知症の人に、もはやそこにないかもしれない事実を記憶から探し出させることが多く、苛立ちや苦痛につながることがあります。その代わりに、SPECAL法では、介護者が観察や穏やかな会話を通して情報を収集することを奨励し、直接的な質問のプレッシャーを避けます。
専門家（認知症の人）の話を聞く： 認知症の人は自分自身の経験の専門家であると考えられています。介護者は、認知症の人の質問に注意深く耳を傾け、たとえそれが事実として正確でなかったとしても、精神的に安らぐような答えを提供することが奨励されます。不安を減らし、安心感を与えることが目的です。
反論しない： 認知症の人に反論したり、正したりすると、混乱や動揺を招きます。その代わりに、介護者は、危害を加えない限り、その人の現実の理解に従うことを勧められます。このアプローチは、穏やかな環境を維持し、不必要なストレスを防ぐのに役立ちます。
SPECALケア・プロフィールの作成
SPECAL方式を効果的に適用するために、介護者は認知症の人に合わせたSPECALケア・プロフィールを作成します。このプロフィールはジグソーパズルのようなもので、その人の生活史や嗜好、大切な思い出などをつなぎ合わせていきます。SPECALケア・プロフィールは、介護者がその人らしさを尊重し、その人の幸福を促進する一貫した個別ケアを提供する際の指針となります。
このプロフィールには、認知症になる前に、その人に生きがいや充実感を与えてきた人生の分野である「主なテーマ」が含まれています。このテーマは、その人の自己価値感を高める有意義な活動や会話に参加させるために使われます。さらに、必要なケアを負担に感じることなく受けられるように、尊厳を保つための「健康テーマ」を設定します。
SPECAL観察追跡（SPOT）
SPOTは、認知症の人が常に敬意をもって扱われ、ケアのあらゆる面で本人の同意が考慮されていることを保証するものです。SPOTは、介護者が認知症の人の健康状態を監視し、必要に応じて介護戦略を適応させるのに役立ち、認知症の人が快適で満足した状態を維持できるようにします。
SPECALパスポート ケアの継続性
認知症が進行すると、介護施設への入居が必要になる時が来るかもしれません。SPECAL方式では、SPECALケア・プロフィールから必要な情報を簡潔にまとめた「SPECALパスポート」を作成することで、このような事態に備えることができます。このパスポートは介護施設のスタッフと共有され、新しい環境においても個別ケア・プランが滞りなく継続されるようにします。
SPECALの起源と影響
SPECALの手法は、認知症の人々との数十年にわたる入念な観察と交流の中で開発された。そのルーツはバーフォード・コテージ病院に遡り、ペニー・ガーナーと彼女のボランティア・チームは、患者の声に耳を傾け、患者から学ぶことによって、この方法を開拓しました。それ以来、この方法は多くの研究や評価によって検証され、認知症の人の幸福度を向上させるだけでなく、介護者にとっても大きな精神的安らぎをもたらすことが示されています。
認知症に対する思いやりのあるアプローチ
SPECAL法は、認知症ケアにおける重要な転換を象徴するものであり、症状の改善や不可避的な病気の進行を遅らせることに焦点を当てた従来の戦略から脱却したものです。その代わりに、認知症の人の精神的な幸福を優先し、尊厳と満足感を持って生活できるようにする思いやりのあるアプローチを提供します。
SPECAL法の原則を理解し、実践することで、介護者は愛する人の認知症体験を変え、単に生き延びるだけでなく、成長できる環境を作ることができます。このメソッドは、認知症の限界を超えて、その症状の下にあるその人自身を認識することを促し、その人の晩年が可能な限り安らぎと喜びに満ちたものとなるようにするものです。
Contented Dementia Trust HP: https://contenteddementiatrust.org/
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